人間の臓器としての腸管とそこに住みついている腸内細菌。この両面から腸内環境を捉えましょうとの話しを前回しました。今回はその続きですが、腸を荒らしてはいけませんよというお話しです。一気に書いてしまったので、少々長いですが、とても重要なことを書いたので、最後までしっかり読んで下さい。

腸内環境を健全に保つには、腸を荒らさないことが大事です。また、腸が荒れてしまっているなら、これをいかに健全にするかを考えなければなりません。そして、腸を荒らすのも健全にするのも、私たちが口から摂り入れるものによって行われるのです。すなわち、腸を荒らすようなものは出来るだけ摂らないこと、腸を健全にするようなものを意識して摂ることです。では、腸を荒らすようなものとは何でしょうか。

その前にまずは腸管の構造を見てみましょう。腸とは胃の先から肛門に続く臓器であり、大まかには小腸と大腸に区分されます。その役割は前の記事でも解説したように、食べ物の消化・栄養素の吸収・外敵からの防御と言うことになります。吸収と防御という相反する機能を高度にこなしている腸は3層構造によってこれを緻密に行っています。

まず1層目は乳酸菌の層です。これは人間の臓器ではなく腸内細菌なのですが、この腸内細菌が最初の防衛隊としての役割を果たしてくれています。次に2層目は腸粘膜です。粘膜ですから、少しヌルヌルとした組織体です。鼻腔や胃と言った外部に晒されている器官にも同じように粘膜の層がありますね。

そして、最後の3層目が腸壁となります。腸壁は腸の管そのものですが、管と言ってもゴムホースの様な閉構造ではありません。栄養素が通り抜けられるような構造をしています。具体的には、腸の細胞一つ一つをタイトジャンクションと呼ばれるタンパク質がつなぎ合わせた構造をしています。そして、必要な栄養素は腸管にある受容体が検知し、タイトジャンクションを緩めて隙間から吸収します。一方で、栄養素ではないもの(例えば毒素など)は、タイトジャンクションをきっちりと締めてこれを通しません。

腸が荒れるとは、腸に炎症が起きることです。炎症はどんなものであれ活性酸素を産生するので、健康にとっては非常にマイナスです。さらに腸が荒れることでタイトジャンクションが常に緩んでしまい、毒素など本来体内に取り込んでは行けないものが隙間から取り込まれてしまうことにもなります。タイトジャンクションが常に緩んでしまうことをリーキーガット症候群(腸漏れ症候群)と呼びます。腸内には胃できちんと消化しきれなかった未消化物、これが腐敗することで発生する悪性菌や有害物質などが存在します。タイトジャンクションが緩んでしまうことでこれらが体内に取り込まれてしまいます。有害物質は、腸管を通り抜けるとそのすぐ裏にある血管に入り、血流に乗って全身を巡ります。これがアレルギーを引き起こすのです。アトピーや喘息などのアレルギーがある人は、リーキーガットが疑われます。

アレルギー反応とは、体内に取り込まれた物質を免疫細胞が非自己と認識して攻撃することで起こります。極端な例は臓器移植です。他人の臓器を移植することによって拒絶反応が起こることはよく知られていますね。他人の臓器には他人のDNAが存在するので、非自己と認識して拒絶するのです。これもアレルギー反応の一つと言えます。

例えば私たちが牛肉を食べたとしましょう。牛肉は牛のDNAによって作られています。当然ですね。牛のDNAに基づいてアミノ酸が組み立てられタンパク質になり、これが肉になっているのですからね。そして、これを食べる(咀嚼する)、消化するということは、牛のDNAを消し去る行為でもあるのです。DNAに基づいて組成されているタンパク質を消化酵素によってアミノ酸単体のレベルに断ち切る作業だと言い換えられます。牛のDNAを消し去り栄養素単体レベルにしてから、やっと体内に吸収するということなんです。皆さん肉を食べる時に、お腹の中で牛や豚のDNAを断ち切っているだなんて考えながら食べたことないですよね(私は時々そんなことにも思いを至らせて食べてます笑)。でも、分子生物学的に捉えると、このDNA情報を断ち切ることが、食べる・消化吸収するという行為であると言えるのです。見方を変えると面白いですよね。

さて、腸の話しに戻りましょう。
私たちの消化器官は全ての食物を完全に消化し切れるわけではありません。胃酸や消化酵素の分泌が弱くて消化し切れないケースや一度にたくさんのものを食べ過ぎて消化しきれないケースなどもあります。この時、未消化状態の食物が腸に流れてくるのですが、そのような未消化物は腸が健全であれば体内に取り込んでしまうことはありません。

しかし、リーキーガットがあったらどうなるでしょう。腸のタイトジャンクションが緩んでしまっているので、本来取り込んではいけない未消化物や毒素なども体内に入って来てしまいます。先の牛の例で言えば、牛のDNA情報が残ったままのタンパク質が体内に入ってしまうのです。当然免疫細胞が非自己(異物)と認識して攻撃しますね。これがアレルギーを引き起こすのです。アトピーや喘息などもリーキーガットが原因であることが多く、言い換えればアレルギーは腸に原因があるとも言えるのです。

さらに、毒素などまで取り込んでしまえば、アレルギーに留まらず、肝臓まで荒らすことになります。肝臓は腸のすぐ裏にありますから、毒素はすぐさま肝臓に運ばれ解毒が行われます。しかし、常時毒素が運び込まれるような状況だと肝臓まで炎症を起こしてしまいます。人体の化学工場と呼ばれる肝臓が弱ってしまうのは非常にマズイ事態ですね。

さて、ここまで読んだら、腸を荒らすことが健康にとっていかにマズイことなのか、その一端がわかったのではないでしょうか。自分はアレルギーがないから大丈夫だなんて安心してはいけませんよ。アレルギー症状がなくても腸に炎症が起きていることは良くあることです。腸の炎症は自覚症状がほとんどありませんし、リーキーガットを起こしている人も現代においては相当数いるとも言われています。そして、これらは様々な体調不良を引き起こします。原因がハッキリしない体調不良は、腸に原因があることも多いのです。

さて、ようやく冒頭の問いに戻ります。腸を荒らすものとはどういうものでしょうか。腸を荒らさないためにはどうしたら良いでしょうか。この続きはまた次回。