「あなたの身体はあなたが食べたものから出来ている」
この言葉は良く聞くことでしょう。でもこれ、実は正確ではありません。正確にはタイトルにある通り、「食べたもの」ではなく「消化したもの」なのです。いくら栄養の良いものを食べても、これが消化吸収されなければ、その栄養素はエネルギーにも身にもなりません。
さて、この部屋ではこれまでどんな栄養素をいかに摂るべきかという観点で連載を進めて来ました。栄養素の基本として、タンパク質に始まり、ビタミン、脂質、糖質と解説しましたが、実はミネラルについてはまだ解説してません。実はミネラルは他の栄養素と違って、とても吸収が難しい栄養素なのです。水溶性ビタミンなんかは吸収しやすく、かつ排出もされやすい栄養素なので、とにかく頻回で量をしっかり摂れば良いのですが、ミネラルはそういうわけにはいかないのです。ミネラルをしっかり吸収するには、身体のコンディションが整っていなければなりません。身体のコンディションと言うのは、特に栄養素を吸収する役割を担う器官「腸」です。腸が健全でないとミネラルは上手く吸収出来ません。よく貧血気味の女性が、医師から鉄剤を処方されているのになかなか貧血傾向が改善されないと言う話しを聞きます。これは鉄剤に効果がないのではなく、これを上手く吸収出来ないことが原因であることが多いのです。
と言うことで、ミネラルの話しをする前に、消化吸収について解説しておかねばなりません。栄養素をきちんと消化吸収出来る状態に整えることは、必要な栄養素をきちんと摂ることと同じくらい大事なことです。もちろん、ミネラルだけでなくタンパク質なども消化吸収が重要です。いくらプロテインを飲んだりお肉をたくさん食べても、これがきちんと消化吸収されなければ意味がありません。意味がないどころか、きちんと消化吸収出来なかったタンパク質は腸内で腐敗し腸内環境を荒らすことにもなります。ですから、消化吸収力が弱い人がいきなりプロテインを飲むと上手く消化吸収出来ず、思うように飲めなかったり飲んだ後に気持ち悪くなるということもあるのです。このような場合は焦らずにごく少量から始め、徐々に増やしていくようにしなければなりません。
ミネラルは微量栄養素と呼ばれる通り、タンパク質ほどの量を摂るものではありません。まさに微量なのですが、微量だからこそしっかり吸収出来ることが必要です。鉄剤が効かないからと言ってむやみに量を増やせば、弊害も生じます。鉄は酸化しやすい(錆びやすい)物質ですから、酸化によって体内で活性酸素をたくさん生じさせます。過剰に摂ると活性酸素もたくさん生じてしまうのです。活性酸素は老化や病気の原因にもなりますから、好ましいことではありませんね。また、鉄と同じく重要なミネラルであるマグネシウムも、すぐに下痢を起こしてしまい、なかなか吸収出来ません(この作用を利用して、便秘薬にはマグネシウムが用いられたりします)。このようにミネラルはとても重要な栄養素でありながらも、その摂取は難しいのです。
と言うことで、ミネラルの話しに行く前に、消化吸収力の改善について解説して行きたいと思います。いわゆる人間の消化器官と言うのは、口腔から始まり、食道、胃、小腸、大腸などを経て肛門へと繋がる一本の管のようなものです。人間の身体は竹輪のような構造をしていますから、この消化器官というのは実は体内ではなくて、体外と接しているものであり、胃壁であったり腸壁などで体内と体外を隔てています。中でも、腸は栄養素を吸収する器官ですから、内外を隔てるだけでなく、外から栄養素を取り込めるような機能を有しています。したがって、栄養素をきちんと消化吸収するには腸(小腸・大腸)が健全であることが重要です。さらに、大腸内には腸内細菌が生息しています。その数、約100兆とも言われています。人間の全身の細胞数が37兆個と言われてますから、自身の細胞数より遥かに多くの腸内細菌が腸内に生息しているわけです。
腸活なんて言葉もありますが、栄養素の消化吸収力を考えるときには、人間の器官である腸そのものの健全性と腸内細菌叢(腸内フローラ)の健全性の両面を考える必要があります。この両面を「腸内環境」として捉え、それぞれ然るべきアプローチする必要があります。便秘気味であったり便秘と下痢をちょくちょく起こす人は腸内環境か健全でない可能性が高いと思った方が良いでしょう。
と言うことで、次回からこれら腸内環境について、少し解説して行きたいと思います。