インスリンというホルモンは血液内の糖(血糖)を細胞の中へ取り込むためのスイッチになります。インスリンによって血糖が細胞内へ取り込まれることで血糖が減ります。言い方を変えれば、インスリンは血糖値を下げるホルモンということです。
血液の中に糖がたくさんある状態、すなわち高血糖な状態では血管内に炎症が生じやすくなります。いわば血管内に火事が起こるようなものです。血管内の火事(炎症)が度重なればやがて血管の劣化し、これが老化を招きます。血管は酸素や栄養素の輸送路ですから、血管が劣化すれば、全身の細胞も劣化し、これによって老化が進むわけです。
ですから、インスリンがきちんと作用して血管内を高血糖な状態にしておかないことが重要なのです。血管内の火事を消火する消防隊のような存在がインスリンなのです。
糖質を含む食事をとると食後には血糖値が上がります。この時、インスリンが分泌されることで血糖が細胞に取り込まれ血糖値が下がります。つまり、食後には一旦血糖値が上がり、その後(2時間程度で)血糖値は下がるわけです。
このような現象は一見問題ないように見えますが、必ずしもそうでもないのです。日常的に過剰な糖質を摂取しているとインスリンの効きが徐々に悪くなることがあります。この状態を「インスリン抵抗性が生じる」と言います。消防隊が出動しても火事がなかなか消えてくれなくなるのです。
インスリン抵抗性が生じることは「耐糖能が落ちる」ことにもなります。耐糖能とは、糖質を処理する能力です。消防隊の消火能力が落ちてしまうということです。では、どうすることでインスリン抵抗性が生じて耐糖能が落ちてしまうのでしょうか。
一つは自分の糖質処理能力を超える量の糖質を日常的に摂ることです。つまり、過剰な糖質量というのは自分の処理能力を超える量ということになります。糖質の処理能力には個人差がありますから、一律の基準値はありません。
例えば、一般的には筋肉量が多いほど糖質処理能力も大きくなります。日常的に運動をすることでも糖質処理能力は増えます。また、若い頃は糖質処理能力も高いですが、加齢とともに能力は低下していきます。自身の糖質処理能力を超えるような量の糖質摂取を日常的に行わないことが大事です。食事の度に血管内で大火事が起こり、少しずつ消防隊が火をうまく消すことが出来なくなってしまいます。
二つ目は、長期の糖質制限をすることで人によっては耐糖能が落ちることもあります。長い間、火事が起こらない状態が続くと消防隊が火の消し方を忘れてしまうようなものです。私は長期の糖質制限でも耐糖能が落ちることはありませんでしたが、人によっては注意が必要です。
こうしてインスリン抵抗性が生じて耐糖能が落ちると血糖値がうまく下がらなくなります。血管内で火事がいつまでもくすぶり続けている状態です。当然、血管は傷みます。
インスリン抵抗性が生じると膵臓はさらにたくさんのインスリンを分泌して血糖を抑えようとします。すでに出動した消防隊がうまく消火出来ずにいるので、応援部隊を次々に送り込むわけです。こうして、なんとか消火することは出来ます。
しかし、度重なる火事に次々と駆り出される消防隊は疲弊してしまい、しまいに出動しなくなってしまいます。こうなると大変です。血管内の大火事が鎮火出来ずに燃え続けることになってしまいます。
このように、インスリン抵抗性が生じているのに引き続き過剰な糖質摂取を続けていると、膵臓からインスリンが思うように出なくなってしまい、常に高血糖状態が続くようになってしまいます。この状態が糖尿病です。ですから、糖尿病になるとインスリン注射が必要になってしまうのです。
糖尿病が進むと腎不全になり人工透析が必要になることもあります。腎臓は血液を濾過する毛細血管の塊りのような臓器ですから、高血糖(炎症)のダメージをまともに食らいます。同様に網膜の毛細血管がダメージを受ければ失明することもありますし、四肢の壊死なども起こります。それほど血管内が高血糖状態になることは身体にとって怖い状態なのです。
そんな糖尿病を早期発見するために健康診断では「空腹時血糖値」や「HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)」などの項目でスクリーニングします。インスリンが正常に分泌されていれば、空腹時血糖値やHbA1cも正常範囲内に収まります。
しかし、これらの数値が正常だからと安心してはいけません。まだまだ糖質と血糖値については注意すべき点があります。