これまでタンパク質や脂質の記事では、必須アミノ酸や必須脂肪酸という言葉が出て来ました。人体で生成することが出来ないアミノ酸や脂肪酸のことを必須○○と言うんでしたよね。ビタミンについては、必須ビタミンという言葉はありませんが、そもそも人体で生成出来ない微量栄養素のことをビタミンと呼ぶので、ビタミン全てが必須栄養素ということです。人体で生成出来ない栄養素は必ず食物から補給する必要があります。

では、糖質はどうでしょうか。糖質には必須糖質というものは存在しません。なぜならば体内で必要な糖質(ブドウ糖)は、糖新生と呼ばれる仕組みによって肝臓や腎臓で生成されるので、必ずしも食物から摂取しなくても生きられます。ちなみに、糖新生とは、タンパク質からブドウ糖を作り出すしくみのことです。

人体内で唯一絶対にブドウ糖を必要とするのは、赤血球です。赤血球は、人体の細胞で唯一、ミトコンドリアというエネルギー生成装置を持っていないので、ブドウ糖を利用するしかありません。空腹時や睡眠時などを含めると赤血球へのブドウ糖供給は、ほとんどが肝臓の糖新生によってまかなわれており、食材からは少量です。

また、脳のエネルギーはブドウ糖だけだから糖質は必須だとの論をちょくちょく見かけますが、これは誤りです。脳はミトコンドリアを持っているので、脂肪酸の分解物のケトン体をいくらでもエネルギー源に出来ます。ブドウ糖も利用出来ますが、ブドウ糖「しか」エネルギーに出来ないわけではありません。

また、他の心筋、骨格筋、体細胞は日常的には脂肪酸・ケトン体を主エネルギー源として、時々ブドウ糖を利用します。なぜなら、これらの器官は止まったら死を意味するのですから、確実なエネルギーが必要なのです。糖質(ブドウ糖)は体内にそれほど多く貯蔵しておけないので、そんな不安定なエネルギー源に頼るわけにはいかないということです。

と言うことは、糖質を一切食べなくても大丈夫なのかという疑問も出てくるでしょう。さすがに糖質を一切摂らないなんてあり得ないでしょうと多くの人は思うことでしょう。私はかなり厳格な糖質制限を長く試してみたことがあります。主食類はもちろん根菜類も一切食べず、調味料からも糖質を極力排除するレベルの糖質制限です。まあ実験ではありますが、約1年半の間、ほぼ糖質を摂らずに生活しました。

この間、健康状態は全く問題なく、むしろ頭がクリアーになって仕事のパフォーマンスは上がったように感じました。また、アスリートとしてのパフォーマンスもほぼ落とすことなく(こちらは色々試行錯誤しましたが)過ごすことが出来ました。そして、現に今もこうして元気に生きています。(ただし、いまは糖質も摂っています。その理由は後述)

このような厳格な糖質制限は誰にでも問題なく出来るわけではないので注意してください。普段から糖質依存度が高く、脂質代謝が不十分な人が糖質制限をやると、低血糖症などを招いたり、エネルギー不足から体調不良に陥ったりすることがありますから。

さて、ここで冒頭の問い、糖質は必要なものなのか?に戻りましょう。

(私の答え)
・糖質は私たちにとって必須ではない
・ただし、適量を上手に摂った方が良い

その理由は、次回以降解説していきます。