不飽和脂肪酸のオメガ3、6、9と解説しましたが、まだ触れていない不飽和脂肪酸があります。それがタイトルにあるトランス脂肪酸です。トランス脂肪酸も不飽和脂肪酸の仲間です。

トランス脂肪酸には人工のものと自然のものがあります。自然に発生するものはごく少量なのであまり気にする必要ありません。問題なのは、人工トランス脂肪酸です。これは植物油などの不飽和脂肪酸に水素を添加して飽和脂肪酸のように固形にしたものです。

その代表例がマーガリンやショートニングです。これらは日本ではどこでも普通に買えますし、加工食品にも至る所で使われています。バターは動物性だから身体に悪い、一方、マーガリンは植物性だから身体に良いと言う誤った情報を元に、メーカーが販促したことから、トランス脂肪酸が含まれたマーガリンに健康イメージが定着しました。また、植物油に水素を添加して作れるのですから、バターよりも安価なこともあり、消費者にも人気となったわけです。

また、安価であることに加え、不飽和脂肪酸より酸化しにくいので保存性も効き、固形なので可搬性も良いなど、外食産業や加工食品業者には良いことだらけですから、どんどん拡がったのです。

ところが、様々な疾患との関連性が明確になってきた事で、近年ではトランス脂肪酸が問題視されるようになって来ました。アメリカでは2018年から全面禁止。WHOも2023年までにあらゆる食品からトランス脂肪酸の撤廃を目指すとしています。しかし、我が日本ではまだ規制もなく、トランス脂肪酸使い放題の状態です。ここのところ、さすがに企業も消費者向けの商品ではトランス脂肪酸を減らすようなってきたようですが。

具体的に、トランス脂肪酸はどんな悪さをするのでしょうか。

細胞膜は脂質から出来ています。そして細胞膜の主要な構成要素はリン脂質と呼ばれるもので、このリン酸を頭にしてそこから2本の足が伸びたような構造です。2本足のタコがびっちり並んで膜を作っているイメージです。その二本の足の一本は飽和脂肪酸、もう一本は不飽和脂肪酸から出来ており、飽和脂肪酸は膜の強度を左右し、不飽和脂肪酸は膜の柔軟性を左右します。

トランス脂肪酸も2本の足の材料となるのですが、強度も柔軟性も十分なものになりません。身体を構成する細胞一つ一つがちゃんとしたものにならないことで、様々な不調や病気を引き起こします。また、ホルモンにも作用するためメンタル不調も引き起こしますし、トランス脂肪酸の代謝では活性酸素も生じます。

このようなことから、トランス脂肪酸と心臓病やがん、糖尿病、うつとの関連性が示されています。心臓病では、動脈硬化と深い関連があるLDLコレステロール、中でも本当に悪さをする微小粒子タイプのLDLコレステロールを増やします。さらに、脳にも影響を与えます。脳はその6割が脂質で構成されているのですが、ここにトランス脂肪酸が入り込むことで、脳が萎んだり、認知症の原因となることも明らかになっています。

病気の元凶ですね。このような油が身の回りに溢れています。知らないうちに摂ってしまう状況、これはとても危険なことだと思います。

トランス脂肪酸は危ないから摂らないようにしようと思った時、まずはマーガリンをバターに替える等すれば良いですね。目に見えてわかりやすいから。だから、避けようと思えば避けられる。はず。でも、問題は、加工食品。加工食品の中に隠れていて、知らず知らずのうちに摂ってしまうリスク。これが実は今の日本には溢れています。

まず、おやつとして食べる人も多いスナック菓子、クッキー、コンビニのスイーツなど。これらの大半のものにはまず含まれていると思った方がいいでしょう。コンビニで買うときはパッケージの裏側にある原材料ラベルをチェックしましょう。ここに、バターではなく、マーガリンとかショートニングとあればアウト!油脂類、植物油脂と書いてあるのも限りなく黒。トランス脂肪酸でなくともパーム油を使ってるケースも多いので要注意です。コンビニに置いてあるようなおやつ類はほぼアウトと考えた方がいいでしょう。

最近はスイーツも価格競争になっていますから、ケーキ屋さんですらトランス脂肪酸使うところあるようです。ケーキ屋さんのスイーツには原材料ラベルが付いてなかったりするので何が使われてるかわかりません。そんなときの判断材料の一つは価格です。バターや生クリームを使えばどうしても安くは出来ません。安いものには理由があると言うことです。

コーヒーに入れるフレッシュにも注意が必要です。コンビニやカフェに常温で置いてあるコーヒーフレッシュはトランス脂肪酸です。本来、生クリームが常温で長期間保存出来る訳はないのですから。トランス脂肪酸が食べるプラスチックと呼ばれたりするのもわかります。

そして、意外とトランス脂肪酸たっぷりで危険なのが菓子パンです。菓子パンにはほぼ例外なくトランス脂肪酸が使われています。食パンならそんなことないだろうと思うかもしれませんが、大手製パンメーカーの食パンはかなりの確率でトランス脂肪酸を使っています。最近は高級食パンなるものも人気で、かなり高価にも関わらずとても売れてますね。高級なんだから、バター使ってるんだろうと思いたいところですが、さにあらず。

少し前に、乃が○という人気高級食パン屋さんのパン作り風景をテレビが映してました。それを見てビックリ!マーガリンを大量に入れてました。マーガリン使うとバターよりもふっくらして日持ちするのがその理由のようです。こうなると価格が判断材料にもならず困ったものです。

スイーツ、お菓子、パンに続いて、次は食事です。ファストフードや外食チェーン店などの揚げ物。トランス脂肪酸は外食産業では揚げ油に良く使われます。安くて保存が容易だからです。しかも、比較的酸化しにくいので、揚げ油を何度も繰り返し使えます。外食産業から見ればとても重宝する油です。本来、油は高価なものですから、揚げ物も高価になるはずです。これが安価に提供されると言うことは、それなりの理由があるということですね。

トランス脂肪酸の害も少し広まったことから、トランス脂肪酸不使用を謳った商品も目にするようになりました。とはいえ、法的に規制されていませんから、まだまだ私たちの周りには至る所に溢れています。

最後に、もっとも大事なはなしです。それは、子供への害です。子供は大人の縮小版ではなくて、未完成版なのです。解毒機能なども大人の様にはキチンと備わってません。子供に飲酒や喫煙を禁止する法律はこのためにあるのです。でも残念ながらトランス脂肪酸は禁止されていません。成長途上の子供は大人よりも大きな害を受けるのです。

トランス脂肪酸に限らず、大人がきちんとしたリテラシーを持ち、適切な食生活をすること。それがもっとも大切ではないでしょうか。