脂質はまず飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に大別されます。一般的には、常温で固形のものが飽和脂肪酸、常温で液状のものが不飽和脂肪酸です。肉の脂は飽和脂肪酸が多いので固形になります。一方、いわゆるサラダ油は不飽和脂肪酸が多いので液状です。魚の脂も不飽和脂肪酸が多く含まれます。

「動物性の脂は血液がドロドロになるから控えた方がいい」という話しをちょいちょい聞きます。これに対して、植物性の油は身体に良さそうなイメージですよね。大豆油やコーン油、サフラワー油などをサラダ油と呼ぶわけですが、サラダという名前からしていかにも健康に良さそうです。ここで言う動物性の脂というのは飽和脂肪酸を指し、植物性の油は不飽和脂肪酸を指しているようです。

と言うことは、飽和脂肪酸は身体に悪い、不飽和脂肪酸は身体に良いと言うことになります。果たして本当にそうなんでしょうか。ここで少し脂質を構成する脂肪酸という分子を掘り下げて見てみましょう。

脂肪酸という分子は、炭素原子や水素原子、酸素原子から出来ています。主には炭素原子と水素原子です。これらがどのように結合しているのか、その違いが飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の違いになります。なんだか難しい話しになって来ましたね。ちょっとわかりやすく例え話しにしてみます。

炭素くんと水素くんがたくさんいるとします。炭素くんにはなんと手が4本もあります。炭素くんは2本の手を使って両隣の炭素くんと手をつなぎ合っています。そして、さらに余った2本の手で、それぞれ別々の水素くんとも手をつないでいます。水素くんは手が一本だけです。

こうして炭素くんが手をつなぎ合って並び、さらにその周りに水素くんもきれいにつながった集団が出来ました。このような集団、これが飽和脂肪酸です。

一方、このような集団の中で、ある炭素くんには手をつなぐ相手の水素くんが一人しかいない状況が起きてしまいました。炭素くんの手が一本余ってしまいます。炭素くんは仕方がないので手持ち無沙汰の手で、すでに手をつないでいる隣りの炭素くんとさらに手をつなぎました。そこだけ2本の手で炭素くんどうしがつなかっていて、水素くんが一人足りません。このような状態になっている集団、これが不飽和脂肪酸です。
炭素原子と水素原子の集団の中に、二重結合部分があるかないか、これが飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の違いです。そして、その二重結合部がいくつあるのか、その位置がどこにあるのかによって、オメガ3、6、9のようにさらに分類されるのです。

さて、脂肪酸の成り立ちがなんとなくわかったところで、冒頭の問いに戻りましょう。飽和脂肪酸は身体に悪くて不飽和脂肪酸は身体に良い、これは事実なのでしょうか。

不飽和脂肪酸には、炭素原子と水素原子の集団の中に二重結合部分があるとの話しをしました。実はこの二重結合部分があることで曲がりやすくなり、グニャグニャな構造になります。このため分子が液状になるのです。そして、このような不安定な構造は酸化しやすくなります。

不飽和脂肪酸は酸素に触れたり、紫外線に当たったり、また高温になることで簡単に酸化してしまいます。例えば、揚げものを繰り返すと、油が黒くなり嫌な臭いがすることと思います。この原因は油の酸化であり、これによって過酸化脂質というものが生成されます。

このような酸化した油=過酸化脂質を摂ると、体内では活性酸素が生じます。そして、活性酸素は細胞膜を酸化させ、細胞膜が脆弱化してしまいます。こうなると、細胞膜を通しての栄養素の吸収がスムーズに出来なくなってしまったり、細胞そのものも壊れやすくなってしまいます。また、細胞膜が活性酸素によって酸化することで、さらに過酸化脂質を生むことになります。

この過酸化脂質がタンパク質と結びつくとリポフスチンという褐色の物質になります。肌でこれが作られるとシミになります。シミの原因は紫外線と言われますが、紫外線はきっかけの一つであり、真の犯人は過酸化脂質です。

そして、肌にシミがあるということは、体内の臓器にも、そして脳内や血管にもリポフスチンが出来ている可能性が高いと思った方が良いでしょう。リポフスチンは細胞の死骸のようなものですから、これがたくさんあれば身体の機能にも弊害が起きます。さまざまな病気の原因にもなります。美容上の問題に留まらないのです。

このように不飽和脂肪酸は酸化しやすく身体に害をもたらすことがあります。一方、身体に悪いと誤解されている飽和脂肪酸の方は酸化しにくい脂質なのです。酸化という観点で見れば、飽和脂肪酸の方が身体には害がないということが言えます。そして、飽和脂肪酸を摂ると血液がドロドロになる、そんな化学的根拠もありません。

こうしてみると不飽和脂肪酸の方が悪いように見えますね。でも、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸、どちらが良い悪いという二元論で見るべきではありません。不飽和脂肪酸は酸化しやすいから身体に悪いと短絡的に考えるのではなく、酸化しやすいという特性を知って、出来るだけ酸化させないような工夫をすればいいわけです。

飽和脂肪酸も不飽和脂肪酸もどちらも身体には必要な栄養素です。どちらも摂りすぎも摂らなすぎもいけません。それぞれの特性を知って上手に摂りたいものです。