酵素とビタミンの結合のしやすさ(親和力)には個人差があることをビタミンの確率的親和力と呼びました。次はビタミンのカスケード理論について解説しましょう。
私たちの体内では数千種類もの代謝が行われています。これらの代謝には酵素やビタミンがそれぞれ必要になります。代謝を滞りなく行うためには、まずは何をおいてもタンパク質が必要です。酵素はタンパク質から出来ていますからね。もしも外から摂取するタンパク質が足りなければ、私たちの身体は自身の細胞を壊してタンパク質(アミノ酸)を調達します。
一方で、ビタミンは私たちの体内では生成出来ない栄養素です。自身の細胞を壊そうとも、自分では調達することは出来ません。ですから、外から摂取するしかありません。もしも外からの摂取が不足したらどうなるのでしょうか。そのようなことになれば数千種類ある代謝のうち、どこかに支障が出ることでしょう。いずれかの代謝に支障が出ると言うことは、身体のどこかに何らかの異常が生じるということになります。
ただし、異常とは言っても、すぐに気づくほどでもないでしょう。なんだか疲れやすいなといった症状に現れることもあるでしょうが、多くは気づかぬまま過ごすことになるでしょう。人間の身体は、どこかの代謝が少しぐらい上手く行われなくとも機能不全に陥ったり、すぐに死んでしまうようなことはありません。生存にとって優先度が高いところへ限られた栄養素を振りむけたり、バックアップ機構を働かせたりと、なんとか生体の機能を維持しようとします。でも、優先度が低いとは言え、どこかの代謝が上手く機能しなければ、時とともに少しずつ不具合が顕在化してきます。それが老化であり病気ということです。
さて、ここでタイトルにも掲げたカスケード理論に戻りましょう。何段にも連なった小さな滝のことをカスケードと呼びます。段々滝と訳したら良いでしょうか。上流から流れてきた水が、上流側の滝から段々に流れ落ちていく様子を想像してみて下さい。それぞれの滝で滝壺ができ、一旦水が留まりながらも下段に落ちていきます。
段々滝も水量が十分にあれば、いずれの段の滝にも水が十分行き渡りますね。しかし、水量が少なかったらどうなるでしょうか。上段の滝壺には水が貯まりつつも、下段に行くほど水量が減っていきますね。ヘタをすれば下段は干上がってしまうでしょう。
私たちの体内にもこのようなメカニズムが存在します。水がビタミン、それぞれの滝の段がそれぞれの代謝と捉えてみて下さい。ビタミンを摂取すると、上段から順に代謝に使われ、下段に流れ落ち、下段の代謝に使われていきます。このメカニズムをビタミンのカスケード理論と呼びます。
このようなメカニズムを前提とした時、もしビタミンの摂取量が少なかったらどうなるでしょうか。下段の滝が干上がってしまうように、下段にある代謝は機能しなくなってしまいますね。このような状態が長く続いたらどうなるのか。結果はもうわかりますね。
では、私たちの体内のビタミンカスケードは具体的にどのような形態になっているのでしょうか。どのような順序で滝(代謝)が並んでいるのでしょうか。また、どのように水(ビタミン)が貯まりどこへ流れ落ちていくのでしょうか。残念ながら、これを調べることは現実的には困難です。なぜならば、人はみな異なるDNA(遺伝子)を持っています。そして、カスケードはこのDNA(遺伝子)によって決められていますから。現在の技術でこれを解析することは困難です。
しかし、人によってマチマチなカスケードとは言え、多くの人に共通したビタミンの局在というものがあります。例えば、リンパ球や白血球、脳、副腎、水晶体はビタミンC濃度はとても高いことがわかっています。血中のビタミンC濃度と比べると、これらの器官のビタミンC濃度は数十倍~150倍も高いのです。これは、これらの器官がたくさんのビタミンCを必要としていることでもあります。
リンパ球や白血球は免疫機能にとても大きな役割を果たしています。外敵から身体を守ることは生命維持に重要ですから、優先的にビタミンCを使っているのでしょう。また、脳の下垂体や副腎はストレスを受けた時にストレス対抗するためにたくさんのビタミンCを使います。ストレス対抗も自身の身体を守るためには重要ですからね。
そして、ウィルスに感染した時や癌に罹患した時などは免疫機能が亢進します。また、強いストレスがかかっている時は副腎からコルチゾールと呼ばれる抗ストレスホルモンをたくさん分泌してストレス対抗します。この時、平時よりもたくさんのビタミンCが必要になります。このようにビタミンの必要量は、人によってマチマチだけでなく、同じ人でもコンディションによってマチマチなのです。
ところで、ビタミンCにはメラニン産生抑制効果があります。これは肌の美白作用をもたらすものです。女性の皆さんはよくご存知のことと思います。しかし、美白のためにビタミンCを意識して摂っていたとしても、その量が十分でなければ美白の効果はあまり得られないでしょう。ビタミンCはカスケードの上段にあるリンパ球や白血球、脳、副腎などに優先的に使われ、メラニン産生抑制まで回らないでしょうからね。これは多くの人に共通するカスケードの優先順位と考えられます。
このようなメカニズムが理解出来れば、その対策は容易に頭に浮かぶことでしょう。そうです、上流から出来るだけたくさんの水を常に流してあげることです。下段が干からびないように。たくさんの水を流せば下段までしっかり水が流れ落ちることでしょう。一気に大量の水を流すのではなく、継続的に十分な量の水を流すことが肝要です。このように考えれば、自身のカスケードを把握出来なくとも手の打ちようはありますね。
これも分子栄養学にメガビタミンという概念がある理由です。ビタミンの確率的親和力とともにカスケード理論は、ビタミンを考える上でとても大事な概念です。